2020年新種牡馬成績を振り返る

レポートby馬賭


0.  本レポートにおける注意事項


 注意事項に関してはこれまでのレポートと重複する部分があり、それぞれの0項を参照していただきたい。


1. はじめに

 これまでの検討で、種牡馬成績をその複勝率で整理することによってある程度意味のある評価となることが分かってきた。それでも各年の成績のばらつきがあり、長年のデータの積み重ねによって、より正しい評価ができてくるのも事実である。ただそれでは種牡馬デビューから数年たたないと真っ当な評価ができないということになってしまって、データの利用価値がそれほど高くないことになってしまわないだろうか。そこで、もっと手っ取り早く種牡馬の能力を知ることができないかどうかを検討する目的で、種牡馬デビューの年の成績でどこまで語ることができるのか試してみたいと考えた。本レポートでは、2020年デビューの種牡馬成績と現在活躍している種牡馬のデビュー年の成績を用いて、できる限りの考察をしてみたい。


2. データの取得方法

 検討したレースはJRAのレースのみである。データベースはJRA-VANデータラボを使用した。どの種牡馬が新種牡馬か?に関しては、公式な情報が存在するのかどうか分からず、書籍やネット情報を参考に独自にまとめてみたので、正確性に疑問が残るが、ご容赦願いたい。

 JRA-VANのデータを用いて各種牡馬産駒の2歳戦の複勝率を計算すると同時に、2歳戦の平均複勝率で割った適正指数を計算した。複勝率、適正指数は芝、ダート別に取得、計算した((1)式)。


適正指数=各種牡馬産駒の複勝率/2歳戦全体の複勝率 (1)


3. 結果

 まず、2020年の2歳戦の全体像を把握しておく(表1)。


表1 2020年2歳戦概要



レース数 出走頭数 平均複勝率
411 5423 0.226
ダート 228 3178 0.215

 次いで、2020年の2歳リーディングの結果を表2に示す。

表2 2020年2歳リーディングサイヤー



 2歳リーディングと、3歳、古馬を含めたリーディングでは、同じような顔ぶれが上位に来てはいるが、完全には一致していない。2歳戦はダート戦が少ない、長距離戦が少ない、などのレース条件的な差異や、種牡馬によっては早熟、晩成など成長パターンの違いにより、違いが出ても当然と言えよう。本件に関しては本レポートの主題ではないので、参考情報として留めておくとして、早速2020年新種牡馬の成績を振り返ってみたい。

 表3に新種牡馬の成績を示す。

表3 2020年新種牡馬の成績


 2歳馬リーディングでも上位に食い込んでいた、ドゥラメンテ、モーリス、リオンディーズは、出走数だけではなく、複勝率も高いのが分かる。ダノンレジェンドの成績も中々目立つ。数字上はクリーンエコロジー、ゴールスキー、ミュゼスルタン、Shalaaも複勝率は高いが、非常に少ない出走数の中での値なので、検討外としたい。
 新種牡馬の内ドゥラメンテの芝・ダート、モーリスの芝、リオンディーズの芝、ダノンレジェンドのダートは複勝率が0.3以上(ドゥラメンテの芝は若干足りないが)である。古馬を含めた種牡馬成績では、複勝率が0.3を超えることは稀であり、2歳馬に限った成績とはいえ、優秀な成績といえる。ここで、過去に種牡馬デビューの年に、産駒の複勝率が0.3を上回った例を見てみたい。2017年まで遡って、30走以上の出走があった種牡馬の例を抽出した。結果を表4に示す。2018年産駒デビュー組の中には該当する種牡馬はいなかった。

表4 種牡馬デビュー年に複勝率0.3を超えた例。
種牡馬 複勝率
2017 ロードカナロア 0.426(芝)
2017 ヘニーヒューズ 0.423(ダート)
2017 ノヴェリスト 0.307(芝)
2017 ハードスパン 0.365(ダート)
2019 キズナ 0.323(ダート)
2019 エピファネイア 0.355(芝)
2019 カレンブラックヒル 0.361(ダート)

 2017年組の各種牡馬の活躍はハードスパンを除けば説明の必要はないだろう。ハードスパンは日本での供用は1年のみだったので、実力のほどは分からないが、少なくとも2018年にも3歳になった産駒が活躍し、ダート戦では平均複勝率0.206を上回る0.233(適正指数:1.131)を示していて、2017年の2歳戦の成績はまぐれではなかったといえる。芝への出走は数が少ないので、目立った活躍はないが、たった1年間の産駒の中から、なんと芝の重賞勝ち馬(メイケイダイハード)を出していて、潜在能力は相当なものなのではないだろうか。これからも少数ながら持ち込み馬として産駒が入ってくる可能性はあるので、注目しておきたい種牡馬である。
 2019年組に目を移してみよう。デビュー間もないこれらの種牡馬の評価もまだまだ固まってないとはいえ、すでに活躍の兆候は出てきている。キズナは芝、ダート問わず、活躍馬を出していて、2歳戦、3歳戦、そして古馬と重賞勝ち馬を量産中で、ディープインパクト産駒の中では、種牡馬としての出世頭となっている。エピファネイアはデアリングタクトやエフフォーリアなどGI馬(さらにはGI2着のアリストテレス)を既に排出しており、しかも一発屋ではなく、複勝率も相当なものなので、芝専用なのが気にはなるが、今後が楽しみである。カレンブラックヒルも活躍の目立たない1頭かもしれないが、2020年のダート複勝率は0.299、2021年は6月6日現在のダートの複勝率は0.330であり、トップクラスの成績である。ダート適正が理解され、ダートへの出走数が芝のそれを超え始めたのが2020年の後半からだったのでこれから上位クラスでの活躍馬が出てくるはずである。

 このように見てくると、種牡馬デビュー年の産駒成績で複勝率が0.3を超えるような種牡馬は、その後の活躍はある程度約束されているいってもよいようである。ドゥラメンテ、モーリス、リオンディーズ、ダノンレジェンド産駒には今後も注目したい。特にダノンレジェンドはマイナー血統が故に期待があまり大きくなかったのだろうか、初年度の種付け数は100にも満たなかった。しかし、産駒の評判が良いのだろう、種付け数が順調に伸びており、生産界の期待も膨らんでいるようである。

 それでは初年度の産駒成績、複勝率が0.3を超えないような種牡馬は期待できないのだろうか?簡単に検証してみたい。今回2020年の種牡馬リーディング上位20位以内の種牡馬について、デビュー年の成績を振り返ってみた。

表5 2020年種牡馬リーディング上位馬の、種牡馬デビュー年の成績


 表5からわかるように、20頭中、14頭の種牡馬が芝またはダート(場合によっては両方)で複勝率0.3以上、指数としては1.4以上の成績を残していて、例外は6頭のみであった。例外6頭の内、オルフェーヴルやジャスタウェイのように平均値以上(指数1以上)を無難を出している例もあれば、ステイゴールドのようにその後の活躍からは想像ができないほどの低レベルの成績に終わった種牡馬もいる。ステイゴールドなどは、6年の歳月をかけてリーディング一桁台にまで上り詰めており、単に産駒が晩成型というだけでは説明できない(事実早熟な産駒も多い)。それではやはり、長い年月をかけないと種牡馬能力を見極めることができないのだろうか。そうかもしれないが、これら6頭には、ある共通点がある。平均的には成績が振るわなくても、一部の産駒がとてつもない強さを発揮し、早くからGI級の活躍馬を出していることである。以下にその一例を列挙してみる

オルフェーブル産駒: ラッキーライラック(初年度産駒)、エポカドーロ(初年度産駒)
ステイゴールド産駒: ドリームジャーニー(2年目産駒)
スクリーンヒーロー産駒: モーリス(初年度産駒)、ゴールドアクター(初年度産駒)
ジャスタウェイ産駒: ヴェロックス(初年度産駒)
ヴィクトワールピサ産駒: ジュエラー(初年度産駒)
サウスヴィグラス産駒: ラブミーチャン(3年目産駒)

サウスヴィグラス産駒は若干地味に映るかもしれないが、GI級ではないが2年目産駒のナムラタイタンがデビュー6連勝を飾るなど話題を振りまいていた。潜在能力のある種牡馬はやはりキラリと光る結果を目に見える形で示すものなのであろう。

4. まとめ

 2020年の新種牡馬の成績を振り返りながら、その将来性について検討してみた。2歳戦限定とはいえ、芝あるいはダートの複勝率が0.3を超えたドゥラメンテ、モーリス、リオンディーズ、ダノンレジェンドの種牡馬としての将来は明るいであろう。ただその他の種牡馬にもチャンスがないわけではなく、早いうちからGI級の活躍をするような産駒を出せるかどうかを着目しておきたい。

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